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category掌編ころころ

紅ふたつぶ

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2年前に創作小説サイトで投稿したもの。
確か、お題は『秋』だったような。

凝り過ぎてない分、素直であっさりした出来なのでは。


 *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** 

 とんとんなー、ぽんぽんなー
 灯りがいるよ、冬がくる

 こんこんなー、とんとんなー
 赤いぼんぼり、青いぼんぼり

 かんかんなー、たんたんなー


 

 そのアルバイトは9月に始まった。小学5年生の悠太の家庭教師だ。塾の夏季講習で成績が伸びなかったらしい。
 今日びの小学生は大変だ。
 週3日塾通いで、週2日家庭教師。その他に絵画教室と水泳教室。本人に聞くと、それぞれの教室に友達がいるので、それほど悲観したものでもないらしい。
 大学からそのまま悠太のうちに行くので、いつもお母さんが軽食を出してくれる。一食浮くし、実家では食べたことがないしゃれた物が出てくるので、毎回楽しみだった。悠太に練習問題を出して、その間にパクつく。お母さんは、カップに紅茶を入れたりしながら、俺が食べている間、話し相手をしていってくれる。

「先生、ここまでどうやっていらっしゃってるの?」

 先生と呼ばれるのも、若くて美人のお母さんに敬語で話されるのも、くすぐったかった。

「あ、チャリです」
「え、遠いでしょう?」
「うーん、大学からここまで7キロ、ここからアパートまで5キロってとこでしょうか」
「まあ、大変」
「先生、もしかして太助稲荷の前を通ってないだろうね?」

 悠太が練習問題そっちのけで、会話に参加してきた。

「太助稲荷?」
「悠太! またバカな話して! ごめんなさいね、先生」

 お母さんが空の皿を下げて子供部屋を出て行った後、悠太がこっそり教えてくれた。

「夜、太助稲荷の前を通ると、狐に化かされるんだよ?」
「化かされる……?」

 学校で評判らしい。火の玉が飛んでいたとか、歌が聞こえたとか、道がわからなくなったとか……。ゲームばかりやっていそうな今時の小学生が、狐を怖がったりするのか、とちょっと笑ってしまった。
 悠太が熱心に説明してくれたところによると、確かにその稲荷神社は俺の帰り道にあった。田んぼの真ん中のちょっとこんもりした森の中にあるらしい。

「減反政策で神社の周りの田んぼが荒れて、ススキ野原になったから、狐が怒って悪さをするんだ」

 真剣な顔で、最もらしいことを言う。
 


 バイトにばかり明け暮れていたわけじゃない。大学の勉強だってそれなりに忙しい。
 出版されてる参考書と問題集をこなしておけばそこそこの点数が取れた高校までと違う。教えてくれている当の教授にさえ、”正解”がわからないのが大学の勉強なのだ。つまり、自分で考えて正解を見つける方法を覚える場所だと言える。

 だから試験勉強のやり方も、高校までと全然違っていた。ホームルームで試験対策委員を決めるのだ。試験対策委員というのは、その科目の過去問や出題傾向を調べて、予想問題を作る係りなのだ。全科目をそれぞれ分担する。
 俺はというと、後期は「基礎防災工学」の試験対策委員になった。小野さんと2人で担当だ。やった。苦手な教科だけど、これで話す機会が増える。 

 あ、彼女が来た。俺に向かって微笑んでいる。

「川村くん、よろしくね」
「こっちこそ、よろしく。本当は俺、防災工学苦手なんだけど」

 正直にそう言うと、小野さんはほっとしたようににこっと笑った。

「私もなの。物理の公式とかちんぷんかんぷんで。でも、委員になったら仕方なく勉強するでしょう? これからは絶対必要な知識だと思うし」

 うーん。マジメだ。髪型も服装もきちんとしていて、浮ついたところがない。

 もともと工学部って女子が少ないのだ。ましてや建築学科なんて。俺たちの学年は、小野さんを入れて4人。総勢72人の中で女子4人だから、逆ハーレムだ。入学式の時に高校の制服と大差ないような野暮ったいスーツを着ていたのが、みるみる垢抜けて、すっかりフェロモンばりばりの女王蜂みたいに変身してしまった……小野さん以外は。他の男子どもは、3人の女王蜂に群がって、お互いに蹴落とすのに忙しい。俺はそういうのパス。化粧っ気のない、ローヒールのサンダルにくつした履いた小野さんをこっそり観察。

 ……うーん、今日も流行を超越した服装。でもダサイとかそういうのじゃないんだよなあ。独自のスタイル?「赤毛のアン」とかそういう感じだね、これは。あ、石鹸の匂い。すっぴんのほっぺが赤ちゃんみたいだな。腕時計以外アクセサリーもなし。

 ん? でも、あの耳のあれは……

「川村くん?」
「あ、ごめん。ちょっとノートの不備に気がついて。先輩に聞いておくよ」

 小野さんは、俺の不埒な視線に気がつかなかったらしい。安心したようにふわっと笑う。

「あの……試験前にまとめて勉強するの、不安なの。毎週、講義の記憶がはっきりしているうちに、内容を整理したいんだけど……」
「ええと……つまり、勉強会をして復習するってこと?」
「ええ。迷惑じゃなかったら」

 話している間中、俺の目は小野さんの桜色の耳たぶに釘付け。あれは、ほくろじゃないよなあ? でも、ピアス・ホール? 小野さんが? 入学以来、小野さんがピアスしているところなんか見たことない。
 2人のバイトや部活のスケジュールをつき合わせた結果、毎週水曜日、4時から勉強会をすることにした。その時間なら、わからないところが出ても、すぐ教授に聞きにいける。場所は学生ホールのラウンジ。いつも適度に騒がしくて、適度にプライヴァシーが保てる。

 何度目かの勉強会のとき、俺は思い切って耳のことを聞いてみた。小野さんはとまどったような顔をして、耳たぶを隠すようなしぐさをした。しまった。地雷?

「やだ。そんなに目立つ?」
「いや、目立たないよ。俺もこの間、初めて気がついた。ただ、ほくろにしては左右対称だから……」

 小野さんがまだうつむいて、耳たぶを隠している。俺は可哀想になってしまった。

「子供の頃、開けたものなの。1歳のときに、両親が誕生石のベビーピアスをつけてくれたの」
「1歳? 1歳でピアスを?」
「お守りの意味があったみたい。近所の子供もみんなつけていたし……まあ、流行だったのね」

 どういうご近所だ、それ。

「私……10歳までデュセルドルフで育ったの。父の仕事の関係で。10歳に日本に帰って来て……小学校に転校した初日、たいした考えもなく、ピアスをつけていってしまったの。おかっぱだったから、先生も気がつかなかったみたいで……それで……初日から浮いてしまったわけ。その後、2度と付けて登校しなかったけど、挽回できなかった。子供って残酷よね」
「いじめられたの?」
「うーん、まあ、いろいろ。言葉もおぼつかなかったし。きっとちょっとしたしぐさとか、習慣のわからないところとか、みんなの気持ちを逆立てちゃったんだと思う。でも、わざとじゃなかった。私にはわからなかっただけなの」

 俺は小野さんにピアスをプレゼントしようと決めた。クラスの名簿で、来月誕生日だと確かめてある。バイトの金も全部貯めた。ひまを見つけて、百貨店やモールのジュエリー・ショップをうろついてみる。きれいなお姉さんがいろいろ相談に乗ってくれるけど、どんなピアスなら小野さんが喜んでくれるかわからない。彼女のかたくなで、寂しい心を溶かしてくれるピアスが欲しい。


 家庭教師のバイトの帰り、俺は田んぼの中の一本道をチャリで走っていた。悠太のお母さんは、「好きな人からもらえばどんなものでもうれしいものよ」と、まったく参考にならないアドヴァイスをくれた。そんなんじゃないんだ。俺はただ、小野さんに笑って欲しいだけなのに。

 稲刈りの終わった田んぼはがらんとしている。ところどころ、休耕田にススキの銀色の穂が光って揺れる。

 小粒の真珠、18金の木の葉、サンゴを彫った小さなバラ……みんな似合いそうなのに、受け取った小野さんが笑ってくれる顔をイメージできない。

 もう誕生日は来週だ。でも、俺は決められなかった。何だかどれをプレゼントしても、寂しいような困ったような顔をさせてしまいそうじゃないか。

 田中の道は暗かった。夜毎に育った月は出るのが遅くなって、明かりは地味な秋の星と木星だけ。早くバス通りに出よう。俺はペダルに力をこめた。


 ……途端に、視界が反転。何が起こった? 気がついたら道路にのびていた。そして、横でチャリの車輪がカラカラ鳴っている。何か踏んで転んだかな? とにかく脇に避けよう。いくら車通りが少ないとはいえ、踏まれちゃかなわん……って、ここどこ?



 見渡す限り、銀色の穂。
田んぼは? 道路は? 遠くに黒く、こんもりした森の影。そして、森の向こうから信じられないような大きさの満月が上ってきた。ピンクがかった橙色で何だかうまそうだ。森へと延びた道にオレンジや黄色や青の明かりがぶらさがっている。

幽かに笛の音。

 ……お祭りか?

 さくさく。ススキを踏んで足音が聞こえる。色とりどりのぼんぼりを下げたキツネが、森に歩いていく。



 とんとんなー、ぽんぽんなー
 灯りがいるよ、冬がくる

 こんこんなー、とんとんなー
 赤いぼんぼり、青いぼんぼり

 かんかんなー、たんたんなー



 俺は灯りの列と、キツネの歌に誘われるように、ほの暗い森に入っていった。赤い鳥居が無数に並んでいて、ほんわり灯りに照らされている。境内には夜店がたくさん出ていた。売り子もキツネ。客もキツネ。人気のあるのは「火の玉掬い」。うすあげで作ったポイで、漂ううす青い火を掬っている。売っている食べ物も、がんもどきや厚揚げ、きつねうどんに、お稲荷さん。


 “みみたま”

 ホオノキの大きな葉っぱに手書きで書いたヘンな看板に気付いて立ち止まった。露台には葉っぱが敷き詰められていて、その上に瞬く色取り取りの小さな玉。

「これ、何?」
「耳を飾る玉ですよ、その名の通り」

 キツネはそんなことも知らないのか、という顔をする。

「ちゃんと金の金具がついてます。すぐに耳に下げられますよ?この青いのはキキョウのつぼみ。この黄緑のはフサスグリの実。こっちの白いのはウツギのつぼみ。どれがお好みですか?」

 まさか、本当に花のつぼみではあるまいが、思わず信じそうになるくらいそれは瑞々しくみえた。ガラス? いや、柔らかく感じる。プラスチック?
違うな。透明感がある。内側からほんのり光っているようだ。

「これって、ちゃんとホンモノ? 日を浴びたら花に戻っちゃうとか、3日しか保たない、とかそんなことない?」
「お客様が払ってくださった代価の分だけ有効です」

 キツネがマジメくさった顔をして答える。そんなナゾナゾのようなことを言われても。

「でも、ひとりのお客様にひとつしか、まじないが効きません。ひとつだけ選んでください。今なら特製ジュエリー・ケースをおつけします」

 それで、俺は選んだ。小野さんの耳たぶを飾って、傷ついた心に灯りを灯しそうな小さな玉を。


 確かに気の利いた包装だった。それだけで、小野さんは大喜びしてくれた。小さな紙袋……いや、紙じゃないな。落ち葉をびっしり貼り付けたオレンジや黄色の袋の中に入っていたのは……季節外れのホオヅキだった。ホオの部分がもう茶色く枯れて、繊細な葉脈の透かし彫りになっている。柄には小さな金色の鈴と赤いリボンが結わえ付けてあった。そうっとホオを破って、透けて見えていた夕日のような実に触れる。それは、簡単にホオから外れてころりと転がった。……中には赤いメノウのついたピアスが2粒。
 
「誕生日おめでとう。君はもう子供じゃない。クラスメイトも子供じゃない。もう大丈夫だよ」

 小野さんの頬が赤く染まった。笑ってくれるかと思ったら、泣かせてしまった。でも大丈夫みたいだ。泣きながら微笑んでくれたから。……

転んで膝を擦り剥いた甲斐があった。キツネたち、ありがとう。恩に着る。今度、うすあげ持っていくから。


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〔テーマ:小説ジャンル:小説・文学

 









        
 
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