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category横笛奇譚

『花鎮め』

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 父親の方のセージの話は構想十ウン年。
 大学の友人や先輩も入り乱れた青春物語、お化け風味。

 今回は参加しているSNSの ”桜祭り” で息子の話を書きました。
 いまいち、あっさりした出来になってしまった。

 まあ、季節もの、ということで。


 === === === === === === === === === === === === 

 桜のつぼみがふくらんで、柔らかな薄紅色に色づいていた。
 故郷の街では卒業式のとき、満開に咲き切った桜の花びらを肩に受けながら友人と写真を撮ったのに。僕はこの街で二度目の春を迎える。
 海からの風を感じる。埋め立てで海は遠くなったのに、9階建ての研究棟のてっぺんに上がっても海が見えないのに、ここではいつも海が感じられる。僕はこの街で暮らすのだ。初めて両親と離れて。
 
 それはささやかな反抗だった。僕は反抗期も迎えず、両親と仲良く過ごしてきた。実際、仲良すぎる、と友人に気持ち悪がられたりうらやましがられたりしたものだ。今考えてみると、適度な距離感が良かったのだと思う。両親は僕を支配しようとも、所有物扱いしようともしなかった。過剰な期待を押し付けることもなかった。つまり、本当の子供じゃないから。
 のん気なものだ。大学受験のために戸籍謄本をもらいに行くまで、自分が養子だなんて思いもしなかったのだ。

 両親はちゃんと説明してくれた。父は子供ができない体質で、母もそれを知った上で結婚した。でもどうしても子供が欲しかったので、僕を養子に迎えた、と。養子縁組の時の約束で、両親は僕の本当の親のことは一切知らない。僕が20歳になったら話すつもりだった、と。僕は予定より2年早く知ってしまったわけだ。
 僕はどう考えていいのかわからなかった。僕は大事に育ててもらった。感謝こそすれ、恨む筋合いはない。でも、本当の親だと信じていたから、混乱してしまった。急遽受験校を変更して、家から700キロ離れた大学に進学した。進路指導の教諭は、僕がその大学の名物教授の名前を挙げて、その先生の下で砂漠緑化の研究がしたいのだというと諸手を上げて応援してくれた。

 家を離れて、ゆっくり考えたかった。僕のこれまでと、僕のこれからを。

 入学式の大学はとにかく混み合っていて騒がしくて、僕は息がつまって目が回ってきた。いろんなクラブやサークルを勧誘する上級生。大学生協への加入を呼びかける組合員。お祭り騒ぎだ。
 それでこのひっそりした研究棟の最上階に上がって、僕のこれからのホームグラウンドになる街を見渡してみたのだ。この大学はこんもりした山の裾野にある。だから街中にあるのに、緑が多い。大学の背後に、さして標高のないその山の山頂に向けて石段が見えた。木々の梢の間にその石段の先に冬鼠色の瓦屋根が見えた。誰か住んでいるんだろうか。


 大学を抜け出して、裏山に来てみた。人でひしめき合った構内を出て、ようやく深呼吸できた気がする。
 石段は思ったよりも長かった。でも苦にならない。石段の両側に見事な枝ぶりの桜が並んでいて、そのつぼみの色を見上げているだけで気持ちが明るくなってくる。つぼみをねらって、ウソやヒヨドリが集まって騒いでいる。ウソの頬のバラ色が目にしみた。
 ふぃーふぃーふぃー
 ウソの柔らかな口笛のような声を聞いたとき、ふいに僕は本当に遠くに来たんだと実感した。僕はひとりだ。この街でひとりで生きていくんだ。

 ぽろっと涙がこぼれて、自分で驚いた。
 自分を憐れんでるのか? 何を悲しむことがある。大切に育ててもらったし、こうして大学に行かせてもらった。幸せじゃないか。なのにこの空虚な気持ちは何だろう。何か裏切られたような気持ちになっているのはなぜだろう。

 僕は慌てて涙をぬぐった。そして、ぎくっとした。

 僕のすぐ横に、女の子が立っていた。
 切りそろえたおかっぱの髪が、風に揺れている。そろった前髪の下から大きな目を見張って、じっと僕を見つめている。

 なぜか、その子を見たとき、僕には降りしきる桜の花びらが見えた。もちろん、桜はまだつぼみなのに。
 そしてなぜか、僕はその時までその子がいることに全然、気付かなかった。

 その子は、僕の視線を捉えるとふわっとほころぶように微笑んだ。
 そして、両手をのばして僕の首に回すと、抱きついてささやいた。

「セージ、会いたかった」


 その子は千咲(ちえみ)と名乗った。ふんわりとおしろいのような甘い香りがして、指も身体もひんやりしていた。
「僕はセージじゃない」
「セージじゃない? こんなにそっくりなのに?」
 その子は悲しそうに首をかしげる。
「もしかして、父と間違えているのか? 父は高野青司だ。でも全然似てないよ。だって……」
 だって僕は養子だから。そっくりなはずない。親戚も近所の人も、子供の頃からことさらに僕のことを父親似だと強調していたけれども。

「父? じゃ、あなたはセージの子供なの?」
「君が父のことを話しているんならね。僕は青史郎」
「せーしろ……?」
 千咲はまだ首をかしげている。何だかへんだ。ちょっと足りないのかもしれない。
「でも青い名前よね。同じイメージの名前」
 どうしてわかったんだろう。僕は名前の漢字など教えなかったのに。
「とにかく放してよ。僕はセージじゃない」
 その子はまだ僕の肩に両手をかけて、胸のところから僕の顔を見上げている。小さなくちびるを心持ち開けて、何かを探ろうとするように一生懸命僕の顔を見ている。

 今、考えると不思議だ。僕は女の子に抱きつかれたのなんて初めての体験だったのに、全然どきどきしなかった。むしろ落ち着くような懐かしいような気持ちに包まれていた。妹のような姉のような。母親のような。僕はどれも持っていないけれど。

「セージじゃない?」
「セージじゃない。セージの息子だ。セーシローだ」
「セーシロ」

 彼女の両手が、僕の肩から下りた。僕がほっとしたのも束の間、両手をきゅっと握った。
「セージの子供…・・・?」
「そうだよ」
 本当の子供じゃないけど。
 千咲は僕の両手を握ったまま、ぽろぽろ涙をこぼし始めた。さすがに今度は僕もぎょっとした。
「ど、どうしたの……? どっか痛いのか……?」
「ううん、ううん……」
「大丈夫? どうかした?」
「ううん……よかった。ほっとした。セージの子供……良かったわ」

 彼女は涙をぬぐおうともせずに僕に笑いかけた。そして戸惑っている僕の手をひっぱって、石段の上に向かって走り出した。
「来て。セージの子供に会わせたいの。セーシロの兄弟よ」


 僕は完全に混乱していた。父の子供? かくし子? 
 だいたい不思議だったんだ。父が青司なのに、僕の名前には”三”がつかない。代わりに”四”の音がついている。どこかに”三”のついた子供がいるのか? 青の字を継いだ? 

 石段を上がりながら、目眩がしてきた。
「父さんの子供だって? じゃあ、母親は誰なんだ?」
 千咲はきょとんとした顔で、小首をかしげた。
「え……私ですよ?」
 当たり前じゃないか、という顔をする。僕は千咲の手を振り払った。
「ふざけるな。君が母親? 君、僕より年下だろ? 父は43歳だぞ!」
 彼女はまた小首をかしげる。
「私……セージより年上ですよ?」
 どう見ても、15か16にしか見えない。

 からかわれているのかもしれない。あるいは、この子はどこかおかしいのかもしれない。
 そんな疑いを抱きながらも、僕は彼女に引っ張られて石段を上がった。そこはこじんまりした神社の境内だった。大学から見えていた冬鼠色の屋根の拝殿と、いくつかの小さな社、何かわからない石碑、手水鉢。そんな、当たり前のものがある普通の神社だ。

 春霞の金色の日差しが石畳の上にこぼれていた。
 ででっぽーぽー、ででっぽーぽー
 拍子抜けするほどのんきなキジバトの声が降って来る。

 千咲が手水鉢で、青銅の龍の口からこぼれる水を手に受けている。僕も真似をして手を洗った。それから彼女は拝殿を囲むいくつかの社の列から一際奥に入ったところのこじんまりした祠に僕を導いた。
「手を二回叩いてください」
 太い紐のついた鈴を鳴らした後、千咲が指示する。僕は神社の作法なんか知らないが、いわれたとおりに拍手を打った。

 手を打つ音が、思いの外、大きく響いた。
 ぱあんっ ぱあんっ
 その残響が消えないうちに、辺りがさあっと薄暗くなった。僕はぎくっとして空を見上げた。さっきまであんなに明るかったのに? 急に日が翳ったのか、太陽が見えない。それに急に気温が下がったようだ。空気が冷たい。

「セーシロ、こっち」
 千咲が手招きをする。
「こっちにあなたの兄弟が」


 さっき手を合わせた祠の横手に細い道が続いていた。その道だけがぽうっと光っていて周囲は何も見えない。
「こっちよ、セーシロ。さあ」
 千咲が手を差し出す。僕は彼女の手を握って、暗い道を歩き始めた。

ざざざざざざざざざざざざ

 風がないのに風の音がする。梢がしなって鳴っている。暗い空に何かが渦巻いている。影が走る。あれは何? うめき声を上げながら飛び交っているものは何だ?

「ここは何?」
「セージもここに来たの」
「君と一緒に?」
「私と一緒に」
「ここに僕の兄さんがいるの?」
「そうよ」
「ひとりで?」
「いいえ。私と一緒に」

 細道はゆるやかな登り道になっていた。それほど険しいわけでもないのに、息が切れる。僕の手を握っている千咲の手がひやりと冷たい。最初は僕より年下に見えた。高校生か中学生くらいに。でも今は……大人の女に見える。

「セーシロ……手を離さないで。ひとりでは危ないわ。この道もそれてはだめよ」
 千咲と目が合うたびに、その眼差しの先に降りしきる桜の花びらが見える。暗い空間の中で、彼女の頬が青白く光って見える。黒目勝ちの目にも強い光が宿っていた。
「手を離すとどうなる?」
「落ちるわ。道をそれても。二度と光は見られないわ」
「わかった。手を離さない。でもここは何なの? あの世なのか?」
「セーシロの世界とは別の空間よ。でもつながっている。あれはみんな、セーシロの世界から来たの」
 千咲はあごで、空を行きかう黒い影を指した。
「あれは何? 悪霊?」
「死霊よ。ここは昔からいつも戦場になった場所なの。そういうところなの」
「そういうところ?」
「呼ぶのよ。境界が不安定なの。だから死を呼び寄せる」

 辺りはますます暗く冷たくなってゆく。夜の暗さでも冬の寒さでもない。湿った匂いのする、日の射さない石室の中のような、そんな空気。

「この山のすそ野は窪地なの。昔から何度も池や沼になった。そういう場所には溜まるのよ」
 千咲が僕の大学のある方角を指差した。
「溜まる?」
「水と一緒に、浄化されないものが」

 行きかう黒い影の数も、声の大きさもどんどんエスカレートしてきた。影はもう少しで僕の頭をかすめて行きそうだが、この細道を囲むトンネルのような空間には入ってこられないらしい。

「この山は “塞(さえ)” なの」
「塞?」
「向こうから入ってこないように境界を守っている場所」
 千咲が僕の手をぐいぐい引っ張って、坂を上っていく。道がどんどん険しくなるし、彼女の足は速かった。付いていくのがやっとだ。
「向こうって?」
「ヨミ」
「それ、死後の世界ってこと?」
「そう。でもこの塞が壊れかけたことがあるの。二十二年前に」
「……それって父さんが来たときのこと?」
「そう。セージが助けてくれた。でなければ今頃……」

 道が途切れて開けた場所に出た。急に明るくなった。でも空が明るいわけではない。
「セーシロ、あれ、あのコがあなたの兄弟」
 千咲が指差した先にあるのは一本の桜だった。満開に咲き初めて、はらはらと花びらを降らせている桜。真っ暗な空間の中でそこだけ明るかった。
「あの桜が? 僕の兄弟?」
「そう。セージは、セイゾウと名づけてくれた」

 二人で手をつないだまま、桜の樹の下まで歩いた。もう死霊の叫び声も聞こえない。ここだけ時間が止まったように静かだった。

「この樹が、塞の要なの。でも桜の樹の寿命はそんなに長くない。もうこの樹も何代目かわからないわ。元の樹の土台に新しい樹を接いで、ずっとこの塞を守ってきたの」
 千咲は僕の手を引いて、桜の樹の幹に触らせた。

 温かい。この冷たい世界で、ここだけ温かい。
「生きてるんだ……」
「そうなの。この桜は境界に存在しているの。だから接ぎ木は私たちにはできないのよ。それでセージが……」
「父さんが?」
「私が頼んだの。彼は私のことが見えたから。あなたのように」
「父さんは何をしたの?」
「私とここに来て……枯れかけた老木に若木を接いでくれたの。そしてその若木が要として根付くまで守っていてくれたの」
「どうやって?」
「接いでから要になれるまで、その若木は無防備なの。そしてその間、塞はないのと同じ」
 僕はぞっとした。
「つまり、あの黒い影がここにも入ってこれるってこと?」
「そう」
「あんなものからどうやって樹を守れるんだ?」

 千咲は短い木の棒を差し出した。中空でいくつか穴が空いている。
「これは? 笛?」
「そう。セージはこれで若木を守ってくれたの」
 僕は吹き口に息を吹き込んでみたが、何の音も出ない。
「今は音が出ないわ。まだその時じゃないから」
「どのぐらいの間、吹き続けたの?」
「ここは時間の流れが違うから。でもあなたにとって3日くらいだったと思う」
「3日……」
「命を削ることだと言ったわ。最悪、死んでしまうかも、と私は言ったの。セージはそれでもいいって。塞が無くなって境界が壊れる方が恐ろしいからと言って」
「……」
「恐らく、確実に子孫ができなくなるだろうって言ったの。でも、それでもいいって。この桜を子供だと思うからって……」

 そういえば、一度、母から聞いたことがある。父は学生時代、ひどい病気になって一年大学を休学したそうだ。そのときのことなのか? 命をかけて、この桜の樹を守った?

 僕はそっと桜の樹肌をなでてみた。
「いいな。おまえ、父さんの本当の子供で」
 青三は何も答えず、はらはらと花びらを僕の上に振り掛けてくれた。
 

「また会える?」
 僕らは明るい境内に戻った。
「ええ。いつでも会えるわ」
 千咲は微笑んだ。その瞳の先に今も散りゆく桜の花びらが見える。
「次は父を連れてくるよ」
「ええ。待ってる」
 僕は千咲の手を放して石段を折り始めた。二、三段下りて、ふと振り返ると、もう彼女はいなかった。
「ありがとう。またね」


 僕はケータイで、家を出てから初めて父に電話した。父は驚いたようだった。
「おう、どうした。大学、どんなだ?」
「父さん、父さんもここの大学だったんだね」
「あ、ああ。言ってなかったっけ?」
「聞いてないよ。卒業してから一度もここに来てないの?」
「そういえば行ってないな」
「今度、来なよ。母さんも一緒に。もう一回、花見ができるよ」
 父は驚いたように、電話の向こうで笑った。
「うん、そうだな。そうしようか。母さんがおまえのアパートなんかを見たいって言ってたから」
「そしたら一緒にセイゾウに会いに行こう」
 電話の向こうで、もう一度、父が息を飲んだ。
「……元気だったか?」
「うん。千咲も」
「……そうか……」
 父さんは、きっと千咲に恋をしたんだな。僕と同じように。僕は二十二年遅くて、父さんに負けてしまったけど。
 でもいいや。僕はきっとまた千咲に会える。それに二度目の花見ができる。両親と一緒に。
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〔テーマ:自作小説ジャンル:小説・文学

 
せーしろ
セーシロ?と問いかける千咲ちゃんが可愛いです…。
それから浮世離れしていて、異世界と現実をふわふわゆきかうところ、すごくうちの桜に近いな、と思ってしまいました。花びらが舞っているイメージもそう。
セーシロが私がいままでかいたことのないような性格なのんですけど、なぜか愛おしいです///

どこか懐かしくなる。であうべくしてであったものがたり。直感なんですが、本当にそう思いましたっ。
うれしい……
最初のところにも書いたけど、セージの話はすでに昔作っていて、セーシロのエピソードは今回企画に合わせて作ったんです。ちょうどクロキアの5つの塞を巡る冒険のことを考えていた時期ということもあって、イメージがいろいろオーバーラップしました。
双月世界のアビーは、この話のセージのように境界を警護すべく戦っているわけです。3つ子や桐も一緒に。









        
 
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