category鉱物図鑑

『ソリティア』

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1000文字小説。
ノン・フィクションのようなフィクションです。
実在の人名、地名、機関名などに一切関係ありません。

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 【ソリティア】ひとつ石をはめた指輪・ひとり遊び


 縁日の夜店でそれを見つけた。水色の涼しげな縞模様が入った石の指輪。手描きのポップで ”パワー・ストーン” と銘打って並んでいた。

「あ、それはブルー・レース・アゲート。第六のチャクラに働く石です」
 ちゃらい格好のお兄さんが、すかさず解説する。
「何に効くの?」
「第六だから……えーと、ノドですね」
 何かノートをカンニングして答える。
 ふうん。私はいつもノドから風邪をひいて、年に3回は声が出なくなる。いいかもしれない。碁石を3回りくらい小さくした形。ボタンかおはじきのよう。真鍮の安っぽい輪がついているのも、オモチャのようでかえって気に入った。

「じゃ、これください」
 小銭入れをポケットから出した私に、後ろで見ていた11歳の姪が叫んだ。
「叔母さん、指輪、自分で買うの?」
 日頃、大人しくてあんまり自分からしゃべらない子が、驚いて思わず、といった風情で叫んだのだ。
「指輪って自分で買っていいの? 男の人に買ってもらうものじゃないの?」
 女性の自立がどうとか、男に貢がせてどうするとか、いろいろ言葉が浮かんだ。
 けれど、やめた。未来ある少女に呪いをかけることはない。
「えへへ、でもそういう人いないもんね。自分にご褒美」
「ふうん」
 水色の石は、むしろ誇らしげに私の中指で輝いていた。
 
 それから年月が経って、その姪も就職し、私の左手の薬指は空いたままだった。久しぶりに会った姪に指輪のことを聞いてみた。
「えっ、私、そんな失礼なこと言ったの?」
 赤面して恐縮している。
 私は水色めのうの指輪を左手の薬指にはめてみた。うん、ここが一番効用がありそうだ。いつか誰かにプロポーズされたら? まあ、その時考える。
 でも、もう私は自分でパソコンの配線ができてしまうし、一人で海外旅行にも行けちゃうし、欲しいものはたいてい買えるようになってしまった。
 いや、そもそも、そういうことを期待して結婚するなんて失礼な話だ。じゃあ何のために?
 姪に若い乙女の意見を聞いてみたが、彼女は困って反撃してきた。
「じゃ、叔母さんは?」
 答えを用意してなかったが、それはぽろりとこぼれてきた。
「一緒に散歩できる人」
「へえ、叔母さんらしい」

 うん。そうしよう。一緒に風景を見て、一緒にきれいだと言える人が見つかったら、特等席を明け渡してもいい。でもそれまでは、水色めのうに守ってもらおう。ひとりで風景を見ながら、口笛を吹いて。


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〔テーマ:自作小説ジャンル:小説・文学

 









        
 
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