category鉱物図鑑

『カラスの王子さま』

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1000文字小説、第二段。
これも、擬似ノン・フィクション。

まあ、ガラスも鉱物の一種ということで、”鉱物図鑑” に仲間入りさせました。


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 子供のころ、ずっと信じていた。いつか ”星の王子さま”が現れて、私をここから救い出してくれると。

 多分、第二次性徴辺りから狂い出した。私は居場所のない子供になってしまった。
 兄弟も遊び仲間も男の子ばかり。真っ黒に日焼けして、カブトムシを追いかけて大きくなった。まず、女の子が変わった。続いて、男の子が変わった。私はどちらにも入り損ねたのだ。女の子の話している言葉がひとこともわからない。男の子はもう輪に入れてくれないし、入れば女の子にいじめられる。母は生活に追われて、父の愚痴ばかり言っている。父は自分の趣味にしか関心が無い。父親似の私は、油断すると母の敵になってしまう。

 一日中息をひそめていた。誰にも見つからないように。
 下ばかり見て歩くようになった。誰とも目を合わせないように。
 
 周りに誰もいないときは、小さい頃のように地面を掘ってみる。貝殻とか幼虫とか、宝物はいつも地面の中から出てくる。
 一瞬、地面に真っ黒な穴が開いたように見えた。あまりに混じりけのない黒い空間。よく見ると、それはビー玉だった。青緑のラムネの瓶のようなガラス玉だ。

 どういうこと? 誰が? とりあえず、そのビー玉をきれいに洗って持ち帰った。冷たくて気持ちいい。小さな地球。完全で安全な世界。私はそれをお守りのように持ち歩いた。

 気をつけているうちに、あと2つビー玉を見つけた。すっぽり埋まって均してあるのに、どうして見つけられたのか。
 私はそれを、何かのメッセージだと信じるようになった。誰かが私を知ってる。私を待っている。その世界では言葉が通じるにちがいない。その世界はどこだろう。どこか空の向こう?
 
 ときどき、教室の中で、みんなの声が聞こえなくなる。目の前が見えなくなる。息が出来なくなる。
 私は透明な球たちを胸に抱いて、何度も唱えた。

 ダイジョウブ イツカキット ワタシノバショ イキノデキルバショ モウスコシ


 かなり長い時間が必要だったが、少しずつ、私にも友人ができ、自分なりの居場所を見つけ、この世界で息ができるようになった。
 地面にビー玉を埋めた犯人は、たぶんカラスだと思う。カラスは光るものが好きで、人間からちょろまかした宝物を、大事に地面に隠しているのである。それを、私がまたかっさらってしまったわけだ。

 でもあのビー玉のお陰で、私は過酷な子供時代を生き抜くことができた。私の王子さまは、確かに空の向こうから来てくれたのである。


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〔テーマ:自作小説ジャンル:小説・文学

 









        
 
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