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category鉱物図鑑

『パートタイム・ケビン(前編)』

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予想外だが、シリーズ化してしまった。
2作めまではとりあえず続きます。

”後味悪いシリーズ” としては”アンチ・プリンセス・ファンタジー” の流れを継いでいる気もするが、一応、毎回、何か鉱物が出てきます。


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 浮気男と離婚して以来、もともと八の字眉なのにますます眉根がくっつきっ放しになっていた幸子が、カラランといつものカフェに入ってきた。

「あ、ごめん。待たせちゃった?」とあいさつしながら、頬はバラ色だし、眉はきれいな弧を描いて別人のようだ。自分が主役のはずの結婚式の時でさえ、眉根をくっつけた困った顔で、招待客に謝ってばかりいたくせに。

「どうしたの。何だかやたらに元気そうだけど」
 注文を済ませて落ち着いたところで、私は聞いてみた。
「え、やだ、そう?」 照れるというより恐縮している様子だ。
「恋人でもできた?」
「え、まさか」とますます赤くなっている。

 バリスタがテーブルに並べたこぎれいなだけでお腹に貯まらないランチをつつきながらゆるゆると攻略したところ、幸子には ”大型犬” の友達が出来たらしい。
「いつも一緒にはいられないんだけど、時々、散歩させてもらうの。原っぱでかけ回ったり一緒に転げまわったりしてたら、何だか子供の頃に戻ったみたいで」
「ふうん、何の種類?」
「雑種なんですって。アラビアとイタリアが混ざってるって言ってた」
 イタリア産の犬なんていただろうかと思いつつ、幸子の話に水を差さないように相槌をうっていた。
「月2、3回しか会えないけど楽しくって」
「他の人の犬なの?」
「うん。自分のものにできないのは寂しいけれど、考えようによってはラクよね。日常的なケアは全部飼い主に任せて、いいとこ取りをしているわけだもの。今の私にはそのくらいでちょうどいいかなって思うようにしているの」

 幸子は未だにクスリの力を借りないと眠れないのである。自分のグチを吐き出すのが下手で、他人のグチばかり聞いてしまう幸子には、大型犬というのはいいカウンセラーなのかもしれない。
 何しろ元ダンナの新しい恋人が自分の職場の後輩で、しかも自分がダンナに紹介した子だとわかって自殺の計画を立てていたときでさえ、他愛ない愚痴を垂れ流す友人の電話に3時間もつき合った幸子なのだ。もっともその電話のお陰で、”人に迷惑をかけないように” と綿密に立てた計画が狂って自殺しそこなったのであるが。

 犬なら愚痴を言わないし、自然なスキンシップもある。うん、いいかも。
「何て名前?」
「ムスターファ」
 幸子は照れたように告白する。
「へえ、かっこいいわね。でも、呼びにくくない?」
「そうでもないのよ」

 それからひとしきり、幸子はところどころ黒の混じったコゲ茶の毛の気持ちよさや、ミンチだろうがスープの出汁だろうが、断固、ブタ肉を食べるのを拒否するムスターファの話を幸せそうにしていた。
「決まった場所しか行きたがらないの。身体が大きいくせに気が小さいのよね。食べたことない食べ物も嫌がるし」
 わがままを言われるとうれしいようだ。私はよかったなあと心から安心して幸子と別れた。


 それ以来、電話でもメイルでも幸子の話はムスターファのことばかり。もともと自分のことをくどくど聞かせる子じゃないので、一緒にどこどこに行ったとか他愛ないことを簡単に言うだけだが、なかなか楽しそうだ。ひきこもり勝ちだった子がけっこう遠くまでドライブで出かけているようだ。温泉に行ったとか、レストランで何々を半分こしたなんて話を聞きながら、へえ、最近は犬とそんなとこにも入れるのね、ペットブームも大したものだわ、なんて思っていた。

 夏休み、幸子はヨーロッパと中東を巡る旅に出た。もともと語学に堪能な子で、学生時代はよく先々から絵葉書をもらったものだ。結婚してから最初の旅行になる。ようやくここまで元気になったのね、と私は目頭を押さえた。
 
 ところがチュニジアからの絵葉書に、”アラビア語を操るムスターファは別人のように頼もしいです。イタリアのことも詳しくて、たくさん案内してくれるんですって。ガイド付の旅行なんて初めて。楽しみです” と書いてあって、私は仰天した。犬を連れていったのか? 他人の犬を10日間の旅に? 予防接種とか大変なんじゃなかったっけ? アラビア語? イタリアをガイド? これは幸子の妄想なの? 
 ヴェニスからのハガキには”ゴンドラの船頭さんと二重唱で、ムスターファがセレナーデを歌ってくれました。私の人生はこんなロマンチックなことは無縁だと思っていたのに”。フィレンツェからは ”ムスターファのテーブルマナーはきっとどこの国の宮廷でも通用すると思います。生まれ初めて男の人にホールドされてダンスを踊りました。こんなこと、マンガか映画の中のことだけだと思ってた。ムスターファはダンスも上手なの”。

 妄想が悪化しているのか、それともムスターファは人間の男なのか。どちらがよりマシか決められなかった。どちらにしろ最悪だ。



 (後編へつづく)

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〔テーマ:自作小説ジャンル:小説・文学

 
きれいな背景ですねぇ
小説のほうは…・・・
なんだか、また妙な女性がでてきましたね。どうしたもんでしょうな。
続きが楽しみです。うふふ
ネーミングが悪い
いかにも幸福になれなさそうな名前だよね、幸子って。
どっかぶっ壊れたヒロイン・シリーズ。
シリアスなのかギャグなのか微妙。後編も驚いてね。









        
 
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