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category鉱物図鑑

『パートタイム・ケビン(後編)』

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毎回、急転直下+後味悪いシリーズ。
後編ですが、幸子&千春の話はまだつづく予定です。

 === === === === === === === === === === ===

 もう幸子は日本に戻っているはずだ。私はメイルを打ってみた。
”おいしそうなオーガニック・レストランを見つけました。テラス席はペット可だから、ムスターファを紹介して”

 さて、果たして現れた ”ムスターファ”は、垂れ目気味の甘いマスクをしたいかにも ”たらし”といった風情の男だった。日本語が得意じゃないらしく、幸子に助けてもらいながら英語と日本語チャンポンで自己紹介した。しかしあせるとアラビア語らしきものまで混ざる。

 幸子とは文化センターのアラビア語習字教室で出会ったらしい。ムスターファが講師だった。それから時々、英語の上手な幸子が日本語を教えるようになって、でも結局幸子がアラビア語を覚える方が早かったということらしい。
「幸子サンのフレンド、会うのハジメテ。ウレシイです」
 ”友達”ぐらい覚えろよ。
「で? ムスターファさんはご結婚していらっしゃるんですか?」
「ちーちゃん!」
「悪いけど持って回った聞き方、苦手なの。幸子の親友兼保護者としてはっきり知りたいのよ。ムスターファさん、他にちゃんとした奥さんがいらっしゃって、大人しい幸子を都合よくもて遊ぶつもりじゃないの?」

 ムスターファが何か幸子に聞いて、それから2人は何かわからない言葉で早口にしゃべり始めた。どうやら彼は、私の質問の意味さえわからなかったらしい。結局、幸子が説明したところによると、ムスターファはイタリアで結婚したので、イタリアの法律に則って離婚が成立するまで5年間別居しなくてはならなくて、今、3年目ということだ。つまり、あと2年はモラトリアムで大っぴらに不倫できるということではないか。

 それでも新婚の時でさえ、こんな風に幸福そうに微笑む幸子を見たことがなかった。メニューをていねいに説明して、大丈夫、これは豚肉入ってないわよ、と顔を寄せて面倒を見ている。その様子は恋人というより、お母さんといった感じだが。

 とっちめてやろうと意気込んできたのだが、とりあえずもう少し様子をみることにした。だって仕方ない。幸子が幸せそうなのだから。

 しかしまだ気になる点は2、3ある。その数日後、2人だけで会ったとき、私はもう少し追及してみた。
「どうして ”大型犬”だなんて言ったの?」
「……だって……恥ずかしくて」
「どうして恥ずかしいの?」
「私、バツイチだし、いい年だし、彼の事情もややこしいし。犬ということにしておいた方が思い切り自慢できるなって思って」
 私もいい年で、しかもバツさえつかない ”いき遅れ”なのだが。まあ、そのことはいい。
「親とかには?」
「……ううん、話してない。この先どうなるかわからないし」
 まあ、そうだろうな。親にはとても言えないだろう。
「で、彼は今、奥さん以外の女の人と暮らしているのね?」
「……うん」

 幸子はますますうつむいた。
「日本で講師として働くとき、お世話になったらしいの。でももう少し仕事に慣れたら、ちゃんと彼女に私のこと話すって」
「ふうん」
 幸子はうつむいたまま、小さな声で言った。
「誰にも言ってないの。ちーちゃんだけなの。誰かに応援して欲しかったの。祝福して欲しかったの」
 うつむいていても、目がうるんでいるのがわかる。幸子がこのモードになると私は勝てない。とても祝福する気になれないが、仕方ない。
「わかった。私は幸子の味方だもん。でもムスターファがあなたの ”敵”になると感じたら、遠慮なくかみつくからね」
 幸子はうるんだ瞳でまっすぐ私を見上げてにっこり笑った。ああ、この表情にも勝てない。
「ありがとう。ちーちゃんに話してよかった」


 新しい恋に懐疑的で一番不安だったのは幸子にちがいない。いいではないか。2年後、幸子がムスターファに捨てられたとしても、それまでには彼女ももっと元気になって、もっと健全な新しい恋を見つけられるようになっているだろう。
 その時、私は心から祝福できるだろうか?

 私の恋は誰にも応援してもらえない。祝福を受けることはない。不健全で育たない思い。

 幸子のレバノンみやげのブレスレットに手を通した。ラピスラズリと金が手首で揺れる。
「モスクの装飾タイルがまさにこの色合いなの。繊細で荘厳。ちーちゃんに見せたかったわ。いつか一緒に行きましょうね」

 その時、幸子のとなりにムスターファはいないだろう。
 だからいいの。ありがとう、ムスターファ。束の間の恋人ごっこを楽しむがいい。これから2年間、幸子は私だけのもの。


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〔テーマ:自作小説ジャンル:小説・文学

 
嗚呼ああぁ……
後編って、終わらないでしょこのままじゃ。ライフカードのCMみたいだね
終わらないけど…
当面、幸子とムスターファは仲良しのままです。
続編のテーマはまた別のところにスポットを当てて……
ふっふっふ。









        
 
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